タイトル通り、大家さんと作者の矢部太郎さんの日常の物語です。何か特別な大きなことが起こる訳ではなく、日々の小さな出来事を矢部さんならではの優しい目線で描いています。
大家さんは、ちょっと猫背でこんもりとした髪が何とも可愛らしいおばあさんです。このおばあさんに私は会ったことがありませんが、なぜか本を読む以前から知っているような気持ちになりました。気づいたのは、この物語に出てくる大家さんのようなおばあさんに、私達はきっとどこかで会っているのだと思いました。
この本を読むと、そのおばあさんから自分のことを大事にしてもらったり、優しい言葉をかけてもらった記憶を思い出してしまうのだと思います。だから読んだ後、懐かしさや温かい気持ちになるのだと思いました。私が好きなのは風の強い日に、大家さんと矢部さんの2人で歩いて出かけるシーンです。
風で体が持っていかれてしまう2人が、そっと手をつなぎます。そこで2人とも手をつなぐのは久しぶりと言います。家族でも家族でなくても、手をつなげる誰かがいるという喜びは、人の心を救うのではないかと思うのです。このシーンを読んだだけでも、温かさに溢れています。