「吉野の花」殺人事件 吉村達也・著
分厚い本です。文庫本ですが厚さが、3.5cmもあります。手に取ったときに読み始めるのをためらうほどですが、すぐに引き込まれてしまいます。「吉野の花」といえば、桜です。雪・月・花の3姉妹が出てきます。桜が満開で、雪が積もって、満月の輝く夜に惨劇が起こる設定です。視覚に訴える桜・雪・満月の状況がすごく、そして恐ろしく、いかにも「惨劇」が起こる設定としては良くできています。
ただし・・誰が殺されるのか?犯人はだれか?ことごとく想像を裏切り、完全解決まで本を手放せずに、読み切ってしまいます。情景を描き表す力と、謎の設定の力のある面白い作品です。横溝正史のミステリーを思い起こさせます。映画にしたらなかなかの作品になりそうです。この夜の「惨劇」の遠因となった20数年前の事件が順次語られていきます。因果応報の物語です。この本の分厚さに読み始めるのをちょっと戸惑いましたが、すぐに読み終わってしまいました。充実した作品のためには、これぐらいの長さが必要だったのだなと納得しました。謎解きの主人公は「朝比奈耕作」です。「朝比奈耕作」シリーズの中では、一番の力作です。