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感想・書評・蹴りたい背中。綿矢りさ。好きになった相手の背中を蹴飛ばすことでその感情を表現した芥川賞作品。ネタバレ注意(レビュー)。 #読書

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 この本は、まるで思春期小説です。自我が膨張して周囲と打ち解けることのできない主人公の長谷川初美(以下はつ)の視点を通して、誰もが経験するようなちょっと恥ずかしい心情を比喩を多用した綿矢りさらしいイメージで伝えてくれます。はつが好きになった蜷川という男子は、友達のいないアイドルオタクです。
 面白いのは、どうしてこんな恥ずかしい二人を青春小説の主役にしたのか、ということです。普通なら、美人だとか部活に一生懸命だとか、あるいは地味だけど眼鏡をはずすと美人、といった人間を主人公にするはずです。相手の男子だって、みんなが感情移入したくなるような、絵にかいたようなイケメンが好まれるはずです。そんな定番を根底からぶち壊すような登場人物です。
 しかし、それでいて、自然と感情移入することができてしまうから不思議です。やはりそのあたりは、綿矢りささんの巧みな比喩による心情描写力だと思います。周囲になじめない疎外感やつい反発してしまうはつが感じる視線や空気を、綿矢りささんはまるで自分がその場にいるのではないかと錯覚してしまうように表現してしまい、読んでいて息苦しくなってしまうほどです。
 全体的にコンパクトなこの小説、一回読めば、どうして女の子が好きな男の背中を蹴飛ばしたいと思うに至ったのかよくわかるこの小説は、他に類を見ない唯一無二の小説だと思います。