久しぶりに,船戸与一の本を読み返しました.
数ある彼の作品の中で今回は,金門島流離譚を選びました。
東シナ海に浮かぶというよりも台湾から,大陸に向かう途中にある大金門・小金門の2つの島です。
この辺りは昔から海賊,特に倭寇と恐れられた日本の海賊が出没した海域で古来よりいくつかの話が残っており,またこの海域は東南アジアに向けて日本から向かう途中であるため
古くから海を舞台となったところです。
船戸与一の本は長編小説が多いため好きな本ばかりなのですが,
この金門島流離譚はどちらかと言うと彼の作品の中で珍しく中編小説にあたります。
舞台は台湾にも属さずまた中国本土にも属さないという特殊な立場にある金門島が舞台です。
主人公の 藤堂は元商社マンですが、その商社をやめたあと、この金門島に流れ着きそこで密輸品の買い付けと卸を行っています。
そんな藤堂の怪しげな生活から始まり、やがて自分の運命を呪いたくなる、そんな光景に遭遇し、また自分の血を引いた子供も、同じような運命をもって生まれてきたことの現実を思い知らされる物語です。
いわく因縁とか、宿命とか運命とか、そういったあらがうことのできないものに、人は左右されて生きていることに気づかされます。
船戸さんの作品の多くに流れている、この人間の持っている、どうしようも無い大きな力。
彼は、遺作となった「満州国云々」の中でも、そういった人知の及ばない大きな力を、敷島兄弟を描くことによって我々に伝え続けています。
この作品も同じようなテーマで描かれていますが、やはり浦野さんの魅力は長編小説にあるとつくづく思いました。