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感想・書評・父子ゆえ 梶よう子著。向かい風から逃げません。ネタバレ注意「読み触りは柔らかいです。言葉には温もりがあります」(レビュー)。 #読書

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読み触りは柔らかいです。言葉には温もりがあります。「摺師安次郎人情歴」というサブタイトルからすると、作者の意図した通りというところですね。錦絵は、絵師が版下絵を描き、それを元に彫師が版木を彫り、最後に、摺師が色を載せて紙に摺る。

主人公の摺師・安次郎は武家の出で、腕の良い職人。物語は、息子の信太を残して女房に先立たれた彼を中心に回る。短編連作なので、全体を貫く父子のメイン・ストーリーと、摺師の生活にまつわるサブ・ストーリーが、絡み合いながら進みます。一番の見どころは、安次郎が巻き込まれた摺り勝負のくだりだろう。彼の職人としての腕を妬む摺師・清八から、ある旗本が子供のお祝いに配る、摺物の勝負を挑まれた。これには幼なじみで互いに想いを寄せ合う友恵の縁談も関わっているのだが、本意は、おのれの職人としての矜持のために受ける。さて、勝負の行方は如何に。主要な登場人物は皆、埋めがたい欠落を抱えている。安次郎は恋女房を失った。まだ。幼いながら彫師を目指す信太は利き腕の指を怪我して障害を負った。友恵は嫁ぎ先から離縁されて実家へ戻された。しかし彼らは人生の向かい風から逃れず生きていく。作品に興趣を添えるのは、時折描かれる、実に美味しそうな料理。涼味を誘う瓜の漬物、黄金に輝く甘い卵焼き等々です。作者のサービス精神は、時代小説の旨味を存分に味わせてくれます。