思考の枠組みが揺さぶられる快感:『荘子 全現代語訳 上』(池田知久
『論語』に並ぶ中国古典『荘子』。『荘子』を知っている日本人は多くはないと思いますが、「無用の用」「朝三暮四」「万物斉同」「胡蝶の夢」など、日本の熟語の典拠となるほど、日本人に身近な古典です。『荘子 全現代語訳』は『荘子』を分かりやすく現代語訳した本です。
このうち、上巻では『荘子』「内篇」を現代語訳したものとなっており、『荘子』全体を貫く基本的な考え方が述べられています。そこでは「道」は「一」であり「無」であり、人間の知恵では捉えられないものだと語られています。はじめは何と無責任な考え方だろうと思いましたが、読み進めていくと、現代人は全ての物事を理屈で説明できると思っているのではないかという感想を抱きました。世の中をありのままに見つめて受け入れて、余計な抵抗や足掻きをしないで淡々と生きていく。『荘子』が目指した人間像はこういう姿ではないでしょうか。『荘子 全現代語訳 上』は誰かと何かを比べて自分の幸せを確認しようとする現代人への強烈なカウンターを含んでいますし、私たちはいつの間にか自分と誰かを比較して勝手に苦しんでいるのだと諭してくれているようです。現代人の当たり前の価値観を揺さぶる良書です。