倉橋由美子の「パルタイ」から溢れる尖った若さと知性
これまで倉橋由美子の作品は2冊読んだことがあったのですが、どちらも中年期と晩年に書かれた小説でした。溢れる知性と教養に、批評や皮肉が加わってできる硬質で強い語り口が好きでした。
そして今回初めて、初期の短編集を購入しましたが、もともとの特徴である知性と皮肉はそのままに、若さゆえの少し尖った見方や反発心が感じられ、好戦的な態度がとても好みでした。表題作のパルタイを含む5つほどの短編集なので、それぞれは短い話なのですが、どれも、世の中の見方やみんなが信じているものに対する疑問や疑念を感じさせる作品という点では一貫性があります。特に好きなのは「蛇」で、持ち前の皮肉を込めたストーリーや語り口はもちろんですが、物語の中の設定が変わっていて痛快です。主人公が蛇を飲み込む場面から始まるのですが、社会のシステムや周囲の価値観も、既存の私たちの世界とは違っています。そのことにより、普段信じていた価値観が覆される一方、物語の中のばかげたルールが、私たちの生活にも身近である気もして複雑な気持ちになります。
感動やドラマを求める人には向かない作品かもしれませんが、抽象画のようなシュルレアリズムのような作品が好きな方は楽しめるのではないでしょうか。