オデュッセイアー<上> ホメロス 呉茂一訳
『イリアス』はトロイア攻めの叙事詩。アキレウスやアガメムノーンといった猛者たちの活躍を描いている。
そんな血なまぐさい『イリアス』に対して『オデュッセイア―』は、望郷と家族愛の叙事詩と私は形容したく思う。様々な形で家族への愛情がにじみ出ているのだ。
主人公のオデュッセウスは武勇にも知略にも優れた勇者。トロイア戦役のあと帰途に就くが、神々の怒りを買い幾年にも及ぶ漂泊の苦難をこうむる。戦死したのか、それとも生き延びたのか、それさえも家族に伝えられない。大の男、しかも歴戦の猛者が声を上げて泣くのだ。家族の下へ早く帰りたいと。しかし、神々の怒りはなかなか収まらず、行く先々でさらなる艱難辛苦に遭うのである。
かたや故郷でオデュッセウスを待つ人たちがいる。妻のペーネロペイアと一人息子のテーレマコスだ。主人のいない家は妻への求婚者たちによりないがしろにされ、財産が湯水のように費やされてゆく。ペーネロペイアは夫の安否に気を病んでとるもの手につかない。この状況を何とかしたいテーレマコスは独り暗闘する。けれども若輩ゆえの無力さに打ちひしがれる。そんな絶望に沈む家族の下に、女神アテナが舞い降りた。テーレマコスは女神に導かれて、父の消息をとぶらう旅に出る。
帰ろうともがくひと、帰りを待つひとびと。この立場が正反対の両者の物語は、「大切なひとに会いたい」という感情の下に一種の統一性を獲得している。古代ギリシア世界を通して愛されたこの物語は、幾星霜を経た現代にあって、「家族愛」の時空を超えた普遍性を我々に訴えかけてくるのである。
ありがとう寄稿。
ミステリー好きには堪らない作品ですが、しかし、演劇をやっていた人間として注目したいのはその舞台の移動の無さ。
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